英ウイリアムハルステッドの3ピーススーツお仕立

クラシックスタイルの憧憬

何度かお会いしたことがあり事前に存じ上げておりましたが、無難に収まらないキャラクターがありながら柔らかい物腰で社交的、紳士な魅力を持ったお客様からのオーダー。

WILLIAM HALSTED(ウイリアム・ハルステッド)社のポーラ生地

オーダーの始まりは生地選びから



1875年にイギリス・ブラッドフォードで創業したウィリアムハルステッド社は、150周年を迎える歴史ある高級毛織物工場です。いかにも英国らしい生地作りが特徴の同社のモヘアには南アフリカのケープタウンやカンデブー産の高品質な原毛を用いています。
衣類用の『ウール』とは一般的に羊の毛を指しますが、『モヘア』とはヤギの毛を指します。モヘア糸はそのハリの強さにより汗などで身体にまとわりつきにくく、古くから清涼感ある夏のスーツ生地に用いられています。またこれにより型紙が持つ身体をなぞるような立体的なシルエットがはっきりと浮かび上がります。 鎧のような重厚感とハリコシによるシルエットの美しさ、スーツの本場である英国サヴィルロウの職人から評価を受ける仕立て映えの良さを持ち合わせています。

幅広いビジネスシーンに用い易く、普遍的な価値で広く受け入れられているミディアムグレーカラー

WILLIAM HALSTEAD 
毛70%、モヘア30%| 330g/m|made in England


夏生地ながら330g/mと重めなのはやはり伝統的な英国生地を変わらずに作り続けている同社のこだわりと言えます。日本での着用季節はというと冬を除いた3シーズンといったところでしょうか。重い生地って夏にどうなの?と言われそうですが通気性
に優れ、型崩れしにくいので見た目も良くておススメです。ビジネスでもよくスーツを着られるとのことでしたのでその点も生地を見立てる際のポイントでした。

裏地

裏地にはペイズリー柄を採用。ペイズリーは曲線の連続が生む芸術性や心理的な安心感があるなど言われ、裏地のみならずネクタイやショールなど数多くの衣服や装飾品でも目にします。表地のミディアムグレーに合わせた裏地は土色のような色感、落ち着いた印象の色合わせがシブい!

仕立て・デザイン

当店では本格的なスーツ作りに欠かせない『本バス毛芯』を胸周りの芯地として用いています。これには非常にハリの強い馬の尻尾の毛が使われています。 型崩れしにくく、ジャケットのシルエットで重要な胸の高さを出し、違いのあるジャケットを生む。
ポリエステルなどの化繊と違い、湿気を吸って放出する『毛(ウール)』ですので天然素材の豊かな機能性を持ち、表生地(ウール)との相性、馴染みの良さは言うまでありません。
長持ちする意味での『10年スーツ』などと言いますが型崩れしにくい理由は外から見えないこんなところに隠されています。コストを重視した接着芯仕立てや安価な毛芯仕立てとの差は1〜2年着続けていくとわかるはずです。

ジャケットのボタンを一つボタンにしたり、タキシードのデザインで用いる拝みボタン(*ジャケットの前合わせを突き合わせ、もしくは重ねでも留められる)にしたのはお客様の好みなども考慮した上でオーダーらしい遊び心と袖を通す際の楽しみを少しでも感じていただけるように提案し、採用いただいたディティールでした。

ジャケットのボタンが表と裏に付く『キッスボタン』

ショールカラーの衿付きベストで趣向的なクラシックムードが更に高まります。ベストのフロントはダブルで真ん中の釦穴のみ縦穴にしたのは懐中時計のチェーンを通せるように。今はしなくてもいつかするかもしれない未来のために。

フィッティング

やや撫でぎみの肩傾斜に合わせた体型補正によりジャケットの首筋から肩先に向けた美しいライン、ほど良くフィットしたスーツが緊張感ある自然な佇まいに見せます。

スーツのオーダーでは生地選びに始まり、採寸、デザイン決定、ボタン選び、裏地選びなど一連の内容を少し詳しく記事にさせていただきましたがいかがでしたでしょうか。
クラシックなスタイルを踏襲しながらも、無難とは程良く距離を置き、遊び心を盛り込んだデザインがオーダーらしい一着となりました。お仕立が気に入っていただければ何より幸いです。この度は誠にありがとうございました。